『わたしの本当の子どもたち』は、何が書いてある本?
ある女性のパラレルな二つの人生を描いたジェンダーSF小説です。
もしあのとき、別の選択をしていたら? パトリシアの人生は、若き日の決断を境にふたつに分岐した。並行して語られるふたつの世界で、彼女はまったく異なる道を歩んでゆく。それぞれの世界で出逢う、まったく別の喜び、悲しみ、そして子どもたち。どちらの世界が”真実”なのだろうか? 『図書室の魔法』《ファージング》の著者が贈る、感動の幻想小説。世界幻想文学大賞候補、ティプトリー賞・全米図書館協会RUSA賞受賞作。
老境にある主人公のパトリシアは老人ホームでの平穏なはずの暮らしの中で、記憶の混乱に襲われています。自分には子供が三人いた気がするし、また別のあるときには四人の子供を産んだ人生を生きていた気がするのです。そこから物語は、パトリシアが学生時代にある男性のプロポーズを受け入れた世界と受け入れなかった世界を交互に描いていきます。
大学で出会った男子学生マークとそのまま結婚したパトリシア〈トリッシュ〉は、身勝手なモラハラ夫の抑圧の元で専業主婦となり、愛のない生活のなか死産をくりかえしながら四人の子どもを育てます。
マークのプロポーズを断ったパトリシア〈パット〉は、観光ガイド作家として自立し、運命的に巡り合った同性パートナーと美しき街フィレンツェで愛に満ちた自由な暮らしを営み、友人の精子提供を得て三人の子供を持ちます。
どんな人にオススメ?
本書は女性の人生の選択といったテーマやLGBTの生き方というテーマに関心があるひとに特にオススメしたい小説です。マークとの結婚生活の悲惨さはなかなか辛いものがありますが、歴史上多くの女性が辿ってきた〈あるある〉なエピソードに溢れています。
一方、パットの人生は自由で幸福です。が、彼女が生きた歴史では核戦争が起きるなど現実世界とは違う不穏さが漂います。まさに禍福はあざなえる縄のごとしといった感じでしょうか。ただ、本書が描きだすパットとパートナーの暮らしは〈生産性〉などという偏見を軽々飛び越えるリアル感があり、パートナーシップの一つのロールモデルとしてこうした小説が広く読まれてほしい!
yonderumonの注目ポイント!
トリッシュの夫マークは最低のモラハラ夫です。しかし彼にも深い挫折の傷があり、そして彼には大きな秘密があります。
多くの女性がそうである(そうであった)ように、トリッシュも四人の子供を育て上げる頃には彼女なりの自由を獲得していき、頼れる一家の大黒柱となっていることに女性の強さを感じもします。