イツカ読んだ本も、イマ読んでる本も、マダ読んでない本も! 本に触れたいあなたのための書評サイト、創刊。

yonderumon.com

書評

消滅のしんしんとした哀しみ『密やかな結晶』

投稿日:

『密やかな結晶』は、何が書いてある本?

とある島を舞台に、一つずつ少しずつ〈記憶〉が消滅してゆく世界を描いた小説です。

記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。

鳥や、薔薇や、香水や――さまざまな〈概念〉がある朝とつぜんに消えてしまう〈消滅〉。消滅が起きると島の人々は、その物事にまつわる記憶や感覚を失ってしまいます。記憶警察による記憶狩りも厳しく、ごく稀に存在する〈記憶保持者〉消滅が起きても記憶を失うことのない人々は捕まってしまう世界です。

主人公はこの世界で静かに小説を書いて暮らす女性です。主人公もまた、刻々と一つずつ記憶を失い、それを淡々と受け入れて生きています。

どんな人にオススメ?

主人公が幼いころに、〈記憶保持者〉だった母は記憶警察に連れ去られて亡くなりました。主人公は穏やかで社会に対しては非力な女性ですが、ある知人が〈記憶保持者〉と知り、隠れ部屋を提供してその人を匿い、守り抜こうとします。アンネの日記等の時代をほうふつとさせる秘密の生活が、ささやかな工夫の積み重ねによって維持される様子はいじましく、ディストピア的で、そしてスリリングです。

日常が、自然が、文化が、一つ一つ確実に欠落していく世界はどこへ向かうのか? 主人公に大切な記憶は戻るのか? 〈記憶保持者〉に待ち受ける運命は? ひたひたと絶望を忍び寄らせながらも静穏に進んでいく物語は、最後にあざやかな転回をみせて幕を閉じます。小説家の主人公が書いている劇中作品と合わせて巧みに練られた構成がたどりつく結末の妙をぜひ味わってください!



yonderumonの注目ポイント!

主人公を幼いころから見守るお手伝いのおじいさん。素朴で誠実で「おじょうさま」への忠誠心の篤い、優しいおじいさんのキャラクターに癒されます。隠し部屋づくりや、主人公につくってくれるおやつなど、とっても頼れるおじいさんなのです♪



次に手にとるのはこんな本!




-書評

Copyright© yonderumon.com , 2025 All Rights Reserved Powered by STINGER.