『倒立する塔の殺人』は、何が書いてある本?
幻想文学の大家・皆川博子の描く、美しく知的で残酷な少女小説です。
少女を殺したのは、物語に秘められた毒――戦時中のミッションスクールでは、少女たちの間で小説の回し書きが流行していた。蔓薔薇模様の囲みの中に『倒立する塔の殺人』とタイトルだけ記されたその美しいノートは、図書館の書架に本に紛れてひっそり置かれていた。ノートを手にした者は続きを書き継ぐ。しかし、一人の少女の死をきっかけに、物語に秘められた恐ろしい企みが明らかになり……物語と現実が絡み合う、万華鏡のように美しいミステリー。
ミッションスクールの少女たちの濃密な人間模様が堪能できます。いっぽうで、戦時下のシビアな状況を生きる少女たちの日常のリアリティ。その過酷な生活を耐える生命力と、同時に漂う無常感が胸を打ちます。
劇中作となるノートにかわるがわる書き綴られた小説の展開、そしてノートにまつわる秘密と告白のゆくえもスリリングです。
どんな人にオススメ?
皆川博子ワールドにまだ触れたことがない方、是非まずは一冊お手にしていただきたい! ヨーロッパ舞台の耽美爆発な世界観の物語も皆川さんの真骨頂ですが、この作品はもともとは児童向けに書かれたヤングアダルト作品ということもあり(いやとてもそうは思えないほど濃密で複雑な物語なのですが)、戦中戦後とはいえ日本の学校が舞台ですので入っていきやすいかと思います。
yonderumonの注目ポイント!
ベー様、ジダラックなど少女時代ならではの毒の潜んだあだ名。これぞ少女小説という雰囲気です。この物語はタイトルの通りいろいろなことが〈反転〉を見せる話でもあり、始まりの重苦しい戦争の影や人間関係に比して、読後感はなかなかに爽やかです!